アルバイトの思い出 2024/02/13 10:30 Facebookでシェア URLをコピー 報告 アルバイトの思い出昔の話だけど半年ほどアルバイトで画廊の受付をしていたことがある。その小さな画廊はレトロなビルの2階にありガラス張りのドアを開けると左手に来客用のソファとテーブルが設えてあり正面奥が私の座る受付になっていた。壁には数点のカシニョールのリトグラフと名前も知らない画家の作品が飾られている。まだオープンしたばかりで知人や関係者からの花が置かれ居心地のいい空間だった。しかしオーナーは日中ほとんど外出していて来客もまばらで電話もさほどなく私はほとんど一人で退屈な時間をやり過ごすことになる。同じフロアには他に弁護士事務所と広告代理店が入っていて挨拶を交わすうちに廊下で立ち話をしたりして親しくなり近くの老舗の画廊の受付の女の子と仲良くなって一緒にランチに行くようになり閑古鳥の鳴く画廊の状況とは裏腹に私の退屈な日々は解消されつつあった。そんな時、起死回生の一手としてオーナーが打ち出したのがあるフランス人画家の作品を買い付けて展覧会を開くというものだった。その作品はニューヨークだったかボストンだったかの画廊から購入したので手元に届くまでにそれなりの手間と時間がかかったがやがてオーナーが待ちに待った絵が届いた。画家の名前は忘れてしまったが絵は暗い感じの抽象画だったと思う。感想を言うなら「好きな人は好きでしょうね」と言うしかない。美術雑誌に広告も打ったし関係各所にDMも送った。準備万全で迎えた展覧会だったが客足は芳しくなかった。一度美術館の方が見に来られたことがあったが、オーナーは不在でその後の進展はなかった。そしてある日オーナーが画廊に現れず連絡が取れなくなった。画廊は閉店となり残務処理はオーナーの友人たちが行った。未払いだった私のお給料もその友人の方が支払ってくれた。壁に掛けられていた絵が次々と運び出され、華やかなカシニョールの絵は北新地のクラブに飾られることになったらしい。あの抽象画がどうなったのかはわからない。