『もっと強く』 詩:茨木のり子 2019/06/05 00:39 Share on Facebook Copy URL 檢舉 『もっと強く』 詩:茨木のり子 もっと強く願っていいのだわたしたちは 明石の鯛が食べたいともっと強く願っていいのだわたしたちは 幾種類ものジャムがいつも食卓にあるようにともっと強く願っていいのだわたしたちは 朝日の射す明るい台所がほしいとすりきれた靴は あっさりと捨てキュッと鳴る新しい靴の感触をもっとしばし味わいたいと秋 旅に出たひとがあればウィンクで 送ってやればいいのだなぜだろう萎縮することが生活なのだと思い込んでしまった村と町家々のひさしは 上目づかいのまぶたおーい 小さな時計屋さん猫背を伸ばし あなたは叫んでいいのだ今年もついに 土用の鰻と会わなかったとおーい 小さな釣り道具屋さんあなたは叫んでいいのだ俺はまだ 伊勢の海も見ていないと女が欲しければ奪うのもいいのだ男が欲しければ奪うのもいいのだああ わたしたちがもっともっと貪欲にならないかぎりなにごとも始まりはしないのだ